給与のデジタル払いが解禁へ!企業が押さえるべき3つのポイント

給与のデジタル払いがいよいよ解禁される方針です。企業としてはどのようなポイントを押さえておく必要があるのでしょうか。
この記事では、給与デジタル払い解禁の背景や導入方法、メリット・デメリットについて触れたうえで、導入前に企業が押さえておくべき3つのポイントを解説します。

本記事は、社会保険労務士の玉上氏に執筆いただきました。専門家の目線から、給与前払いサービスについて詳しく解説しています。

玉上 信明(たまがみ のぶあき)

社会保険労務士。三井住友信託銀行にて年金信託や法務、コンプライアンスなどを担当。定年退職後、社会保険労務士として開業。執筆やセミナーを中心に活動中。人事労務問題を専門とし、企業法務全般や時事問題にも取り組んでいる。
【保有資格】社会保険労務士、健康経営エキスパートアドバイザー

給与のデジタル払いが実現間近!その背景とは

給与のデジタル払いとは、PayPayやLINE Payなどのスマホ決済サービスに、会社から従業員の給与を振り込めるようにするというものです。

生活資金の基盤になり得る給与のデジタル払いは、政府の未来投資会議の成長戦略の一つです。まずは、社会全体のデジタル化推進の背景についてみていきましょう。

給与の支払い方法の幅を広げるため

従業員への給与支払い方法は、労働基準法によって現金払いが原則とされており、例外として銀行の預貯金口座などへの振込が認められています。第3の支払い方法として給与デジタル払いが認められれば、支払い方法の幅が広がり、より利便性が高まります。

厚生労働省のアンケート調査では、実際にノンバンクのコード決済(スマホ決済)を利用している人のうち、約4割が給与のデジタル払いの利用を「検討する」と答えており、給与デジタル払いのニーズがあることがわかります。(※1)

※1:資金移動業者の口座への賃金支払について|厚生労働省

新型コロナウイルス対策のため

新型コロナウイルス感染拡大の下では、スマホ決済が人と人との接触を減らし、感染予防になる、というメリットも指摘されています。給与デジタル払いをきっかけにデジタルマネーの利用が増えれば、新型コロナウイルスの感染拡大防止の点からもメリットが生まれます。

外国人労働者への便宜を図るため

外国人労働者は、言語習慣の違いなどから銀行口座開設に苦労する人が少なくありません。給与デジタル払いを活用できれば、外国人労働者にとっても使い勝手のよい給与受け取り方法になり、外国人労働者雇用にも好影響をもたらすでしょう。

給与のデジタル払いがいつ実現するかはまだはっきりしていない

給与デジタル払いについては、2019年頃から成長戦略会議などで検討が進められ、直近に実現するとみられる報道がされてきたこともあります。しかし、給与デジタル払いの受け皿となる資金移動業者について、銀行とは違ってさまざまな問題があると指摘されています。

具体的には、不正利用をされたときの補償の仕組みが整っていない、事業者破綻時の給与資金の保全や払戻しに問題がある、などです。2021年現在、厚生労働省の審議会で細部取り扱いが検討されており、実現までにはさらに紆余曲折がありそうです。

給与のデジタル払い解禁後に企業が導入する方法

実際に給与デジタル払いが解禁され、導入することになった場合には、企業として対応すべきこともあります。それらの対応について、詳しくみていきましょう。

給与規定の見直しを検討する

給与デジタル払いを導入する際には、給与規定の見直しが必須となるでしょう。(※2)
以下の通り、労働基準法において、給与の支払い方法は就業規則で必ず定めるべき内容であると記載されています。

第八十九条 常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする。
二 賃金(臨時の賃金等を除く。以下この号において同じ。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項

引用:労働基準法|e-Gov

なお、現在の厚生労働省モデル就業規則では、給与デジタル払いは考慮されていません。

※2:モデル就業規則|厚生労働省

資金移動事業者の選定

厚生労働省では現在、給与デジタル払いに対応できる資金移動事業者の要件を詰めているところです。企業は資金移動事業者を選定するにあたり、どの事業者が最適なのかを見極める必要があります。

給与計算システムが対応可能かどうかを確認する

現在利用している給与計算システムで、給与デジタル払いに対応できるかどうかを確認しておくようにしましょう。場合によっては、資金移動事業者や給与計算システムベンダーとの打合せが必要となるかもしれません。

また、従業員の情報をどのようにして、安全な方法で資金移動事業者に提供するのか、といったことも把握しておく必要があります。

なお、従業員のなかには、給与の一部をデジタル払い、残りはこれまで通りの銀行口座振込みなどの複雑なニーズがある可能性もあります。どの程度までシステムで対応可能かどうか確認しておきましょう。

企業が給与のデジタル払いを導入することのメリット・デメリット

では、企業が給与のデジタル払いを導入するには、どのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。
ここでは、具体例も含めてそれらを紹介します。

企業が給与のデジタル払いを導入するメリット

従業員における給与のデジタル払いの最大のメリットは、給与を直接スマホ決済に用いることができる点です。
すでにスマホ決済を日常的におこなっている人は、銀行口座から引き出してチャージをおこなう手間を省くことができます。また、外国人労働者にとっては、口座振込よりも給与の受け取りが容易になります。

企業における給与デジタル払いの最大のメリットは、銀行の口座振込よりも手数料が安くなる可能性があることです。これまでは、現金払いは現実的ではなく、実質銀行の口座振込しか選択肢が無かったこともあり、振込み手数料が高止まりしていました。

しかし、資金移動事業者という競争相手が現れることで、手数料軽減の公正な競争がおこなわれていくことが予測されます。

企業が給与のデジタル払いを導入するデメリット

銀行口座振込みと給与デジタル払いを併用する場合、給与に関する事務業務やシステムが煩雑なものになりかねません。
また、資金移動事業者が、銀行ほどの高度な情報セキュリティーを確保しているのかという点も気がかりです。記憶に新しいのは、2020年に起こった「ドコモ口座」不正預金引き出し事件です。このような大企業でさえも、本人確認が不十分だったために顧客の資金を不正利用されました。

さらには、万が一、資金移動事業者が経営破綻してしまった場合、従業員の給与資金が保全されないということも想定されます。

給与のデジタル払いの導入前に企業が押さえるべき3つのポイント

給与のデジタル払いを実際に導入する前に、企業として注意しておくべきこともあります。
ここでは、企業が押さえるべきポイントを3つに絞って紹介します。

1. 従業員のニーズをしっかり把握すること

一番大切なことは、従業員に給与デジタル払いのニーズがどれだけあるかをしっかり把握することです。
会社によって、従業員の年齢構成や生活のスタイルなどで考え方はさまざまでしょう。アンケート調査などをおこなう際は、次の内容を把握しておくことをおすすめします。

  • 給与デジタル払い賛成・反対の全体の比率
  • 年代別の賛否の状況
  • 賛否の回答理由

実際に、NEXER社の「日本トレンドリサーチ」(※3)の調査の結果、全体としては反対している人が40.9%で、若い年代ほど導入に賛成する人が多い、といった結果が出ています。

※3:日本トレンドリサーチ|NEXER

2. 給与規定やシステムなどの環境整備をしっかり進めること

前述の通り、給与規定の整備や給与システムの検討が必要です。資金移動事業者やシステムベンダーなどとの綿密な検討が必要であり、簡単なことではないと考えられます。

従業員のニーズがそれほど高くないのであれば、無理に導入する必要もない、というのも一つの考え方でしょう。

3. 給与デジタル払いの問題点について従業員に注意喚起すること

会社としては、従業員に様々なリスクについて注意喚起しておくことも必要です。具体的には、次のような注意点を周知するといいでしょう。

  • 口座残高を定期的にチェックする
  • 不審な点があれば資金移動事業者に確認する
  • 疑問があれば会社にすぐ報告する

口座の不正利用などの被害が広がらないよう、すぐに対応できる体制を整えておくことが大切です。また、万が一の資金移動業者破綻などに備えた対策を検討しておくことも重要です。

現在のところ、資金移動事業者破綻の際の資金の保全や払い戻しなどの対応方法は、万全とはいえません。給与デジタル払いを選択する場合も、必要最小限の範囲にとどめる、といった注意喚起を従業員にしておくべきかと考えられます。

給与デジタル払いが解禁される前にできる準備を進めておこう

給与デジタル払いは、現在も厚生労働省の労働政策審議会などで次々と問題が指摘され、細かな検討が継続しています。企業として、従業員の大切な給与が不正利用されたり、資金移動事業者の破綻により給与を受け取れないということは、確実に回避しなければなりません。
不十分な検討のままに従業員の給与が失われることがあれば、会社としての安全配慮義務違反を問われかねないでしょう。

給与デジタル払いが解禁される前に、企業として本当に導入する必要があるのかどうかの確認など、できる準備を進めておきましょう。

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