マーケティングに活かせる7つの行動経済学的アプローチ|おすすめ本の紹介もあり

2017年にリチャード・セイラー教授がノーベル経済学賞を受賞してから注目が集まっている「行動経済学」。
この行動経済学とはそもそもどういう学問なのか、従来の経済学と何が違うのかを紹介し、さらにマーケティングに行動経済学のテクニックを活かす方法も紹介します。

行動経済学とは

そもそも行動経済学とはどういった学問なのでしょうか。
ここでは行動経済学についてまず紹介し、これまでの経済学との違いや、マーケティングに活かす方法を紹介します。

心理学×行動経済学

行動経済学は、経済学で用いられたモデルに、より現実性を加味するために心理学的知見を取り入れた学問のことです。
この学問自体は1950年代くらいから研究されていますが、1990年代以降に急速に発展しています。
実際、2002年にニエル・カーネマン氏がノーベル経済学賞を受賞して以降、複数の行動経済学者がノーベル経済学賞を受賞しており、近年注目を浴びている学問の1つです。

従来の経済学との違い

では、なぜ行動経済学はここまで注目を集めているのでしょうか?その答えは、従来の経済学と行動経済学との違いにあります。
従来の経済学では、人は合理的に行動するという前提のもと、さまざまな理論やモデルが構築されていました。

しかし、人間は必ずしも常に合理的な判断をするわけではなく、感情に流されて決断をする場合もあります。
この感情面を考慮して、心理学的知見を取り入れつつ経済学と融合させて、人の経済的活動を分析している学派が行動経済学である、という点に従来の経済学との違いがあります。

非合理的な行動とは

人間は非合理的な行動をとることがあるというのはどういうことでしょうか?ここで1つの例を紹介します。
たとえば、今あなたが800円をもらえるか、1カ月後に1,000円をもらえるか、どちらかを選ぶよう言われた場合を想定してください。この場合、おそらく前者を選ぶ人が多いでしょう。

従来の経済学的立場に立つと、明らかに1,000円をもらう方が合理的である(800円<1,000円であるから)にもかかわらず、実際私たちの多くは今もらえる800円を選びます。
この非合理的な行動を分析しようという試みが、行動経済学者を中心になされているのです。

行動経済学をマーケティングに活かすには

行動経済学をマーケティングに活かすにはどうするべきなのでしょうか。
上の例に挙げたような、人が感情に流されて決断する選択には何かしらの傾向があります。
この傾向を学ぶことで、価格設定やプロモーションなど、さまざまなマーケティング戦略に応用することができます。
ここからは行動経済学者が解き明かした、非合理的な行動をとる人間の行動を紹介し、マーケティングに活かすテクニックを紹介します。

行動経済学をマーケティングに活かすためのメソッド①:プロスペクト理論

プロスペクト理論とは

プロスペクト理論とは、「人は利益を得られる状況ではリスクを回避して利益を得ようとし、損失を被る場面ではリスクをとってでも損失を回避しようとする」ことを示した理論です。
たとえば、以下のようなA、B2種類のシチュエーションで、どちらかを選べる状況があった場合を想定してみてください。

シチュエーションA:
①80%の確率で100万円を手に入れるか、②確実に80万円を手に入れるか

シチュエーションB:
①80%の確率で100万円を失うか、②確実に80万円を失うか

プロスペクト理論にもとづいた数々の実験によると、Aのシチュエーションでは②を選び、Bのシチュエーションでは①を選ぶ人が多いとされています。
どちらも期待値は同じであるにもかかわらず、利益を得られるか損失を被るか、その状況の違いによって取りうる行動が変わるというのがこのプロスペクト理論です。

プロスペクト理論をマーケティングに活かすには

プロスペクト理論をマーケティングに活かす場面として、たとえばキャンペーンが挙げられます。
半額キャンペーンや70%offのキャンペーンなどを打ち出すと同時に、元の値段も表示させることで、お得になった分損失を回避できている気持ちを顧客に植え付けることができ、よりよい成果を生み出すことができるかもしれません。
ただ、常に値下げをおこなったり、値下げをおこなうことを見越して定価を底上げしたりすると、景品表示法違反となる可能性もあるので注意が必要です。

行動経済学をマーケティングに活かすためのメソッド②:サンクコストとコンコルド効果

サンクコストとコンコルド効果とは

サンクコストとは、何をどうしても回収することができないコストのことをいい、埋没費用とも呼ばれます。
このサンクコストが私たちの決断を非合理的にさせるケースがしばしばあります。

たとえば、今あなたはソーシャルゲームで課金をして、良いキャラクターを手に入れるために100円のガチャを回しているとします。
ここまで1,000円分を払ってガチャを回しましたが、なかなか理想のキャラクターが出現しません。ちなみにこのガチャで良いキャラクターが出る確率は10%です。
もともと1,000円までと決めていましたが、あなたはもう100円を投下しますか?

おそらく多くの人がこの状況にいるとさらに100円を投下するでしょう。
「これだけお金を払ったのだからもうそろそろ当たるはずだ」と期待を込めてガチャボタンを押します。
しかし、この「もうそろそろ当たるはずだ」という点に、不合理な期待が込められています。

本来、ここまで投下した1,000円は関係なしに純粋に10%の確率で当たるかどうかを判断しガチャを回すべきですが、多くの人は「これだけ投下したから次は当たるかもしれない」と、この10%を過大評価します。
まさにこの1,000円がサンクコストです。
合理的な行動をとるためには、サンクコストを無視して、かかった費用と確率から推測される利益を純粋に判断する必要があります。

サンクコストとコンコルド効果をマーケティングに活かすには

このサンクコストが私たちの判断に損切りできない心理をもたらす効果をコンコルド効果といいます。
このサンクコストとコンコルド効果を利用したマーケティング施策は世の中に多くあります。
たとえば、割引券があげられます。

あなたがお気に入りの店で10,000円分の商品を購入し、その特典として割引券やクーポンを手に入れたとします。
この「次回10%offクーポン」「期間限定500円offクーポン」などは、「せっかくこの券があるから何か買おう」という心理状態を作り出しており、サンクコストとそれに準ずるコンコルド効果をうまく利用した例であるといえるでしょう。

行動経済学をマーケティングに活かすためのメソッド③:現状維持バイアス

現状維持バイアスとは

現状維持バイアスとは、できるだけ現状を維持し変化することを嫌う特性のことです。
この現状維持バイアスは、私たちが物事を「先延ばし」にしてしまうことからも容易に読み取れます。
宿題や課題が出た際、それを計画通りに早めに終わらせようと思って取り掛ったが、結局はかどらず、期日ギリギリになってやっと焦って取り組むといったことは、小学校時代の夏休みの宿題や大学時代のレポートなど、誰しもある経験なのではないでしょうか。
これは「今」の楽しい状態を重視しすぎてしまう結果であり、「楽しさ」をこのまま終わらせたくない現状維持バイアスにかかっています。

現状維持バイアスをマーケティングに活かすには

現状維持バイアスをマーケティングに活かすには、この考え方を逆手にとって利用することがポイントです。
例としては価格設定の場面などです。
自社でリリースしているサービスに新機能を追加しようとしており、その新機能の価格を設定しようとしている場面を想定してください。

競合他社はその新機能だけに特化した単独のサービスをリリースしており、その価格は5万円だとします。
ここで現状維持バイアスを逆手に取ると、6~7万円までと、競合よりも高い価格設定が可能です。
というのも、多くのユーザーは現状維持バイアスを保有しており、ほかのサービスへと変化することを嫌うからです。(別のサービスへ変更する分、手間やコストがかかるという物理的側面もありますが)

つまり、現状維持バイアスを逆手に取ると、多くのユーザーは「わざわざ別のサービスに変えるくらいなら、少し高いけど7万円払って今のサービスのままで行こう」と意思決定してくれる可能性があるといえるでしょう。
ただし、この価格設定を誤って高すぎる値段にしてしまうと、現状維持バイアスから外れて移行するメリットの方が大きくなるため、適切な価格設定には注意が必要です。

行動経済学をマーケティングに活かすためのメソッド④:バンドワゴン効果

バンドワゴン効果とは

バンドワゴン効果とは、その商品を利用している人が多ければ多いほど、さらに多くの人がその商品を購入したくなるという心理現象のことです。
言い換えると、たくさんの人が利用している人気の商品にはさらに多くの人が集まるという現象のことです。

売れ筋人気No.1の本を買ったり、流行の服を買ったりと、「みんなが買っているからよさそう」という理由で何かしらの商品を買ったことがある方もいるのではないでしょうか。
これこそバンドワゴン効果であり、これを利用するとマーケティングにも活かすことができます。

バンドワゴン効果をマーケティングに活かすには

バンドワゴン効果は、プロモーションの場面で特に有用でしょう。
「人気No.1」「○○で人気!」「○○万人が利用した」といった宣伝文句を用いて商品を宣伝し、多くの人が利用しているという事実を顧客に気付かせるだけで、バンドワゴン効果が作用して売上が上がる可能性があります。

ここで重要なのは、顧客が「多くの人がその商品を利用している」と気付くような仕掛けを作ることです。
バンドワゴン効果をうまく用いてプロモーションを成功させましょう。
ただこの時、利用人数や売上を過剰に記載した場合は、景品表示法違反となるので注意しましょう。

行動経済学をマーケティングに活かすためのメソッド⑤:プラシーボ効果

プラシーボ効果とは

プラシーボ効果とは偽薬効果とも呼ばれ、効果のないものに対して、何らかの思い込みによって影響が生じることです。
たとえば、同じ薬でも2.5ドルだと伝えて渡した場合と0.1ドルだと伝えて渡した場合とでは、前者の方がより高い効果が得られたという実験結果があります。
これは、「高い薬を使っているから効果がある」という思い込みが薬の効果に影響を及ぼした例です。
このプラシーボ効果をうまく利用することで、マーケティングに活かすことができるでしょう。

プラシーボ効果をマーケティングに活かすには

プラシーボ効果をマーケティングに活かすには、うまく思い込みを形成させるとがポイントです。
たとえば何かしらの科学的根拠や権威のある人の意見などをプロモーションに利用することで、本来その商品から得られる以上の効用を得られ、さらにリピートへとつながる可能性があります。

したがって、相手がその商品からそもそもの効用以上の価値を感じてもらうための仕掛けづくりにプラシーボ効果が使えるのではないでしょうか。
また、この効果はバンドワゴン効果とも併用して、プロモーションの文脈で使うことができるでしょう。

行動経済学をマーケティングに活かすためのメソッド⑥:ハロー効果

ハロー効果とは

ハロー効果とは、人やモノなど何らかの対象を評価するときに、目立った特徴によってほかの特徴に対する評価が歪められる効果のことです。
たとえば、相手が難関大学を卒要しているという事実だけで人格的に信頼できると判断したり、英語が話せるだけで仕事ができる人だなと判断したりするような場合が当てはまります。
要するに、目立った特徴に引っ張られて、ほかの特徴もあたかも良いかのような評価を下してしまったり、また同様に目立った特徴のせいでほかの特徴も悪く評価されてしまうことがあるということを表しているのがこのハロー効果です。

ハロー効果をマーケティングに活かすには

ハロー効果をマーケティングに活かした例としては、インフルエンサーマーケティングが挙げられるでしょう。
みなさんも有名人がおいしいと言っていたからその商品を買ったり、著名人がおすすめした本だからその本を買ったという経験があるかもしれません。

これこそハロー効果であり、「有名人がおすすめしたからいいはずだ」というバイアスが評価に混じってしまっています。
しかし逆に、インフルエンサーを活用したインフルエンサーマーケティングに力を入れることで、自分たちの商品やサービスをハロー効果の力を借りながら売り広めることができるのではないでしょうか。

行動経済学をマーケティングに活かすためのメソッド⑦:カリギュラ効果

カリギュラ効果とは

カリギュラ効果とは、禁止されればされるほどその禁止された行動をとってみたくなる心理効果のことを指します。
普通に冷蔵庫にケーキがあれば気にならなかったのに、「このケーキ食べないでね」と言われると「どうせ後で買いに行くから大丈夫だ」と考えて、逆に食べたくなってしまう、そんな心理効果がカリギュラ効果です。
このカリギュラ効果も実際さまざまなマーケティング施策に織り交ぜることができます。

カリギュラ効果をマーケティングに活かすには

カリギュラ効果をマーケティングに活かすといえば、メディアの記事やキャッチコピーをつける場面が想像しやすいでしょう。
「絶対見てはいけないホラー映画」「絶対食べてはいけない辛い料理」というキャッチコピーをつけたり、メディアの記事のタイトルに「閲覧禁止!」と謳ったりすることで、カリギュラ効果を利用することができます。
顧客に自社の商品を利用することを禁止するような宣伝をすることで、カリギュラ効果が働いて利用したくなる場合もあるかもしれません。

行動経済学をマーケティングにさらに活かすために読むべきおすすめ本

ここまで行動経済学のメソッドを学んできて、さらにマーケティングに活かすための方法を知りたくなった方もいるのではないでしょうか。
ここでは、行動経済学をマーケティングにもっと活かすために読むべき名著を4つ紹介します。

『ファスト&スロー(上・下)』

2002年に行動経済学者で初のノーベル経済学賞をとったダニエル・カーネマンによる著書です。
人間が意思決定する際には「速い思考」と「遅い思考」が作用し、時に合理的な判断を、時に非合理的な判断をします。
この本では、その事実を示したさまざまな実験が書かれてあるとともに、私たちはこの非合理的な意思決定にどう対応するべきなのか、書かれてある本です。

ファスト&スロー(上・下)
  • 著 者ダニエル・カーネマン
  • 出版社早川書房
  • 発売日2014/6/20

『予想どおりに不合理』

行動経済学の知見をわかりやすく事例を交えて紹介しているのがこの本です。
そもそも行動経済学とはどんな学問なのか、どういったことが学べるのかを知りたい人には最適な本であるといえます。
この本では、「なぜ私たちは物事を先延ばしにするのか」や「なぜ私たちは我慢できないのか」など、日々の暮らしで直面する選択肢について、さまざまな実験をもとに分析しています。読み物感覚で読むのに適しています。

予想どおりに不合理
  • 著 者ダン・アリエリー
  • 出版社早川書房
  • 発売日2013/8/23

『実践 行動経済学』

2017年にノーベル経済学賞を受賞した、リチャード・セイラーによる著書です。
この本は全米でベストセラーとなっており、私たちが日々の生活を豊かにするためのヒント「Nudge(ナッジ)」を主題に書かれています。
非合理的な行動をとってしまう人類をよりよい方向へと導くためには、どういった制度設計をする必要があるのか、ビジネスだけでなく政治や社会的文脈からも書かれています。

実践 行動経済学
  • 著 者リチャード・セイラー、キャス・サンスティーン
  • 出版社日経BP社
  • 発売日2009/7/9

『エッセンシャル版 行動経済学』

行動経済学という学問をアカデミックな側面から学びたい人におすすめの本です。
直接マーケティングに活きる内容はあまり書かれていませんが、行動経済学という学問を体系的に理解するには最適の本です。
上の3冊のような本をすでに読んで、さらにもっと行動経済学を学びたい方にとって、ステップアップとしての本として非常におすすめです。

エッセンシャル版 行動経済学
  • 著 者ミシェル・バデリー
  • 出版社早川書房
  • 発売日2018/9/5

行動経済学をマーケティングに活かして、成果を増大させよう

人は時に不合理な行動をすることがあります。
この行動法則を理解し、マーケティング施策として応用することで、成果を増大させる可能性があがるかもしれません。
行動経済学をマーケティングに活かすことができる例はこの記事で紹介したものだけでなく、さまざまな場面で応用できます。
行動経済学を勉強して日々の業務に落とし込むことで、うまく人を誘導し、求めるアクションをとってもらえるためのきっかけを生み出すことができるのではないでしょうか。

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